ここでは、記述問題に対応するためのルールをご紹介いたします。記述を書かせる学校は年々増加しており、配点が高いため合否を分ける問題となっています。書くことが苦手で悩んでいる子はこのページをよく読んで、書くきっかけとしてください。
※ここに書いている内容は授業で扱うものの一部です。ただこれを読んだだけで出来るようになるものではなく、トレーニングを重ねる場と適切な指導ができる講師がいて成り立つものです。
①語尾は絶対
なぜですか。→~から。 どういうことですか。→~こと。 違いを答えなさい。→~違い。等、質問に対応した語尾を置くこと。聞かれたことに正しい形で答える、記述問題を解く以前の話です。「そんなことは当たり前じゃないか」と思うかもしれないが、私の見てきた中で考えると、国語の苦手な子の大半は、まずここが全くできていません。
特に間違えやすい聞かれ方が、「○○とはどういうものなのでしょうか。」といった形です。「~もの。」と書ければ及第点。できれば、「~(名詞)。」と終われることが理想です。
④ゴールから考えるにも通じる考え方で、ミスを犯さないという意味もありますが、しっかりと部分点を狙いに行くためにも非常に重要なルールなので、確実に頭に入れておいてほしいと思います。
②主語-述語は正確に
述語に対応する主語を明確にする。明らかな場合は書く必要はありませんが、主語の存在を常に意識した記述を念頭に置くこと。言語の基盤となる主述関係をおろそかにしては、正しい文章が書けるはずがありません。
特に長文記述や作文形式の際に起こりやすいのが、主述の不一致。原因は文を無駄に長くしてしまうことと、読点を適切な位置におかないこと。文は意味が通じにくくなるのであれば、切ってしまって複数になっても構いませんし、字数をオーバーしてしまうからといって読点を削るのは絶対にしてはなりません。
また、上位校以上になると「視座」を意識させる問題が多く出題されます。つまりどの視点から表すべきなのかを考えさせる問題です。
「AはなぜBが〇〇と思ったと感じたのですか。」と聞かれた際に、国語が得意な子でないと、たいてい「Bは、~だから。」と書いてしまいます。設問文の主語は「Aは」となっているため、この問題の視座は「A」なのです。書く際だけでなく、読む際にも視座をしっかり意識する必要があります。
視座を意識できていない子は、読書の際に視座が主人公に固定されたものしか読んでいない可能性があります。読書を受験国語につなげたいのであれば、「登場人物が自分の年齢よりも上であること」「死や愛情、日常的な冒険をテーマである」「科学的な題材」のどれかが入っているものを選ぶべきです。特に中学受験国語では、「成長」がひとつの大きなテーマであることは間違いありません。王道である「変化記述」を書かせやすいことも影響しているでしょう。「本はよく読むが、国語ができない」という子は、受験につながる本を読んでいない可能性がありますので、少し見直してみると良いでしょう。
③ウラ事情をさらけだせ
記述は突き詰めると、「どれだけ親切になれるか」を問われています。採点者が文章を読んでいないとしても、意図が伝わるように書ければ点数は来る。
「ウラ事情」とは本文を読んだ人間にだけ伝わる内容のこと。読んでいない人間にも伝わる当たり前の内容(お母さんにほめられたので、うれしくなった等)は、字数の関係等から切ってもかまわないが、一般的でない内容はしっかりと補足説明をいれなければなりません。
例えば、
お母さんにほめられたことで、胸が苦しくなった。
という文章。ほめられたのに、胸が苦しくなるというのは、一般的な反応ではないですよね。ここは、ウラ事情を入れなければ、採点者に伝わりません。
例えば、テストでズルをして高得点をとった、というウラ事情があったとします。すると、これは、文章を読んだ人にしかわからない内容ですから、
テストでズルをして、高得点をとったが、テスト結果をお母さんにほめられたことで、胸が苦しくなった。
とすれば、採点者も「なるほど」と思うわけです。
また、失点されるケースの多い記述で、「指示語を使うこと」があげられます。「そのような方法では太刀打ちできないから。」とか、「この部分を用いれば~」と指示語を使うことも「ウラ事情をさらけ出せ」に反していますね。指示語の使用も控えた方が良いでしょう。
読んでいない人に伝わる記述、これこそが記述問題の鍵となります。
④ゴールから考える
スポーツでも受験勉強でもなんでもそうですが、ゴール(着地点)を意識しない行動に価値はありません。ゴールを見ないでやみくもに動くのは、非常に効率が悪いのです。記述もそれは同じ。記述も書き出しが大事なのではなく、締めが大事なのです。「どんな気持ちですか」と問われれば、まず、「うれしい気持ち」「悔しい気持ち」「泣きたい気持ち」等、締めを考える。その後、なぜうれしいのか、悔しいのか、泣きたいのかを上に乗せるようにします。
ゴールから考えずに、記述を書くと、字数制限内に必要な内容が入らなかったり、設問の意図に応えない記述になってしまったりするのです。記述問題で部分点ももらえない子は、この「ゴールから考える」という思考が全くなく、「なんて書き始めようかな……」等、時間がかかってしまう上に、答えになりにくい考えを持っています。
また、書けない子に対して、「まず書いてみなさい」と指示する講師はナンセンスです。「まず簡単に考えて、どういう気持ち?(気持ちに限らないが)」と聞いて、その答えを締めとして、「ではなんでうれしいの?」「誰が?」「どれくらい?」等とツッコミを入れ、上に設置させていくのが、正しい指導法なのです。日本語は末節に向かうほど重要度を増します。文の幹たる締めを最初に意識することが最も大切なことです。
⑤人の行動はリアクション
人の行動は大きく分けて二通りあります。「意識的行動」と「無意識的行動」である。今読みながら手や足の指を動かしてみたり、肩を上げてみたり、ペンを動かしてみたり……人は意識していない中で行う動作がかなりあります。これを「無意識的行動」とよんでいますが、自分でも特に意味を持っていない行動を国語で聞かれることはないのです。国語で問われる行動理由記述(心情記述もだが)は、「意識的行動」です。そしてそれは文章に書かれている中から判断することになる。(難関校になると推測する形式が出題されるが、それも文章から判断する)
具体的なやり方は、次の⑥五心動サークルを駆使しろで説明します。
⑥五心動サークルを駆使しろ
五心動とは「五感」「心情」「行動」からそれぞれとったものです。行動理由記述や心情記述を解く際は、「五感」を刺激され、何かを思い、考え(「心情」)、「行動」する。これを念頭に置いて書けばよいのです。もうすこしわかりやすく言うと、「きっかけ」を考えるということです。前項の「リアクション」を前提に考えた時に、「きっかけ」があるから「リアクション」をする。その「きっかけ」となるものが「五感」それを受けての「心情」、そして「行動」へとつながるのです。
例えば、居間でテレビを見ていた時に、お母さんが宿題をなかなかやり始めない君の弟を叱っていて、あわてて自室にもどり勉強をはじめたとします。これを五心動に分解すると、
弟がお母さんに叱られている様子を見て(五感)、自分も叱られるのではないかと焦り(心情)、あわててその場を離れ、勉強した(行動)。
となるわけです。五感と心情と行動は常にリンクしています。行動や心情はリアクションであることをしっかりと理解できていれば、物語文の記述は、もう怖くない!
また、慣れないうちは「五心動サークル」を余白に書き、それぞれの丸のそばにメモをしてみるとやりやすくなる。(本ページでは省略)
⑦比較記述は「A~が、B…。」
説明文で特に問われやすい比較記述。理由は「二項対立」とよばれる二者も考えや意見を比較して意見を述べる表現方法が、評論において最も相手に伝わりやすい表現であるからでしょう。
記述問題で多く出題される「ちがい」を述べさせる問題において、使われる比較記述。大事なことはふたつだけ。ひとつは、「が」ではさむこと。「ちがい」を述べるので、差をはっきりとさせるため、逆接の接続助詞である「が」を使うようにします。(けれども、のに等でも構わないが、短く覚えやすいので「が」を採用)
もうひとつは、「A~が、B…。」の「~」と「…」の部分を逆の意味になるようにしてあげることである。たとえば、
アメリカでは、自分の利益になることは伝えた方が良いという考えだが、日本では自分の利益になることは言わないで置いた方が良いという考え。
といった具合である。この方法の便利なところは、「A~が、B…。」の「~」と「…」の部分のどちらか一方がわかれば、もう片方はその逆を入れ込めば良いということである。
単純にちがいを答える問題は勿論のこと、登場人物の比較等にも使える考え方なので、おぼえておきましょう。
⑧変化記述は、「A→きっかけ→B」
物語文でも説明文でも全体の流れやある程度の長さの文意を理解していないとできず、その上配点が高くなりやすい変化記述。字数が長くなりやすいため苦手な部分となってしまっている子も多いです。開成や麻布、駒場東邦、桜蔭等の難関校では、特にこの変化記述で書かせる設問で合否が分かれます。文章全体のテーマ、流れを掴めていないと書けない問題となっていることが多く、受験生を苦しめます。難関校だけでなく、基本的な変化記述はよく出題されますので、しっかりとおさえておきたいところですね。
問題例としては、
「たかしはこの文章の中でどのように心情が変化していきましたか。わかりやすく説明しなさい。」とか、
「日本の工業は明治から現代までどのように成長してきたと筆者は考えていますか。詳しく説明しなさい。」等です。
記述の中でもかなりとっつきにくい印象がありますよね。しかし、これも⑦比較記述は「A~が、B…。」と同じように形を揃えてしまえば、問題ありません。変化記述の場合は「A→きっかけ→B」とします。
Aに入るのは、「前」「元」「従来」等、変化をする前段階の内容です。子ども達はよくここをぬかしやすいのですが、「変化」を聞いているのだから、まずどのような状態であったのかは書かなければなりません。
Bに入るのは、「後」「今」等、変化をした後の内容です。ここはふつう書けると思います。
しかし、この二つをただつなげてしまうのはダメです。変化とはなんとなく起こるものではなく、結果には必ず原因があるのです。そう「きっかけ」です。AとBの間に「きっかけ」を入れることによって、文章がぐっとわかりやすく、採点者につたわりやすくなります。
たとえば、
「本当の友情は自分が相手に踏み込んでいかないと得られないことを知った」
これは、変化後、Bの部分だけです。ゴールが記載されているので、わからなくもないですが、変化前がわからず、設問に答える事ができていません。
「たかしは、表面上うまくつきあっているだけの友人しか周りにいなかったが、本当の友情は自分が相手に踏み込んでいかないと得られないことを知った」
一見良さそうです。比較記述型となっており、半分弱の部分点は来るでしょう。しかし、文章を読んでいない人にとっては、唐突でいまいちしっくりきません。
「たかしは、表面上うまくつきあっているだけの友人しか周りにいなかったが、サッカー大会を通して本音でぶつかりあう大切さや難しさを知り、本当の友情は自分が相手に踏み込んでいかないと得られないことを知った」
きっかけを入れてあげると、一気にわかりやすくなります。なぜ変化したのかが読んでいない人にも伝わりますよね。
この記述は社会の長い記述を出してくる学校(麻布や海城等)にも使えます。受ける学校が難しくなるほど、重要度を増すので、しっかりと理解しておきましょう。
⑨説明記述は比喩なし、置換可、カンタンに
もっとも多く出題される記述問題、それが説明記述です。説明記述とは、「~とありますが、どういうことですか」「○○はどういう意味ですか。わかりやすく説明しなさい」といった形の問題に答える記述です。
つまり、文章中少しわかりにくくなっていたり、比喩が混じっていたりする文章の意味を本当に理解できているの?と問われているわけです。
ここで一番多いミスは、文中の比喩をそのまま引用すること。これは問題外。まず部分点も来ません。比喩とは筆者が用いた表現技法。ストレートに書いてある文章よりもイメージさせやすくしてある分、前後をしっかり理解できていないと誤解を生んでしまいやすいのです。これをこのまま引用したのでは、その比喩の意味を理解しているのかどうかが採点者にはわかりません。採点は「疑わしきは罰する」怪しいなと思ったら減点されてしまうのです。比喩は必ずかみくだいて一般的な表現に戻すこと。これが「比喩なし」です。
「置換可」読みは「ちかんか」です。5年生中ごろまでは、「センセーナニイッテンノ」となるのですが、理科がある程度進むと、「あーあれね」となる言葉ですね。「置換」とは読んで字のごとく、「おきかえる」こと。文中の文章に線が引いてあり、これはどういうこと?と聞かれているのだから、答える側の記述はその答えがそこに置き換えられても、ある程度意味が通じるものでなければなりません。置き換えられなくなっているということは、その記述は方向がずれているということ。書き直しが必要です。
「カンタンに」これは、答えというより、書く前の段階の考えるきっかけを表すことばです。たとえば、
「人間に対する多方向からの刺激は、人間の知覚を十分に発揮させる、とはどういうことですか」
という問題。なかなか意味がわかりませんよね。これを「カンタンに」すると、
「ヒトに対するいろんなところからの働きは、ヒトが感じたりすることをすごくかつやくさせる」ということです。
つまり、「よくわかんないなー」という文章は自分よりも年下の子にもわかるように簡単に言い換えよう、ということです。文章の幹、ゴールを作る時に役立つ考え方ですし、理社の記述でも使える部分となります。
⑩指示語記述は入れ込みでたしかめ
指示語記述とは、「これとはなんですか」や「この問題を、とはどの問題ですか」等の問題です。この問題、難易度はそれほど高くないのですが、正答率は思っているほどよくありません。原因は「文章に入れて確かめていないので、つながらない」ということです。指示語とは文中に出てきている同じ言葉、内容を指し示すものなので、答えをそのまま文章に入れても全く問題なく意味が通じるようになっていないといけません。
例えば、
みなさんは何か一生懸命になれる、のめりこむことができる趣味を持った経験はあるだろうか。たいていの人はひとつやふたつあるものだと思う。しかし、同じようにたいていの人はあまり長続きせず、あきてしまう経験もお持ちだろう。
この現象は一体なんなのであろう。好奇心という言葉があるが、……
問 この現象とはどんな現象か。「~現象。」に続くように答えなさい。
正解は、
「一生懸命になったり、のめりこむことができる趣味があまり長続きせずあきてしまう」です。
文章中の「この」に入れ込んでも問題なく意味が通じます。しかし、これを、
「一生懸命になったり、のめりこむことができる趣味があまり長続きせずあきてしまう経験」や、
「一生懸命になったり、のめりこむことができる趣味があまり長続きせずあきてしまう人が多い」等としてしまう子が非常に多いのです。
「~経験」では「~現象。」に続かないし、「長続きせずあきてしまう人が多い現象。」では意味が変わってしまいます。「指示語記述は入れ込みでたしかめ」たったこれだけのことなのですが、制限時間があると意外に出来ないものなので、注意が必要です。
⑪性格記述は、「その人だけのエピソード、一般論。」
性格記述とは、「○○とは、どういう人物と言えますか」等のその登場人物の性格を答える問題です。結構漠然としていて、答えにくい問題と捉える子が多い印象の問題ですね。
確かに、長い文章の中からその子の性格を言い当てるのは難しいと思います。でも、たとえば、周りの友人や両親、先生の性格を答えて、というと結構答えられるものです。
「ふざけている」「適当」「お調子者」「短気」……すべて私が生徒から言われる言葉ですが、他にも「やさしい」とか「いじめっこ」「気が弱い」等、周りの人を評価できる一般的な言葉は世の中にあふれています。
しかし、国語の記述では一般的な言葉だけだと、ありふれていることが原因で、採点者からはわかりづらくなってしまいます。
なので、たとえば、
「正義感の強い人物。」(ゴール)
だとしたとき、その上にその人しか持っていない正義感の強い「エピソード」を文中から引っ張り、乗せるようにします。たとえば、
「陽子が男子からいじめられている中、皆を一喝して助けてくれる、正義感の強い人物。」
とすると、なぜ正義感が強いといえるのかが具体的に伝わってきます。
このように性格記述では、一般的な言葉(一般論)をゴールに持ってきて、その理由となるその人だけのエピソードを入れるようにします。
⑫批評は「時間的」「空間的」「環境的」に考える
適性検査型の試験や麻布等の難関校で見られる問題形式、それが批評です。学校でも「読書感想文」がそれにあたり、大学受験では「小論文」として姿を現します。記述問題の最難関ともいえる批評はその自由度の高さが、最大の壁です。
しかし、これも形を覚えてしまえば、いいのです。まず大事なのは「説得力」を答えに持たせること。自分の答えを読んでもらった時に、「そうかなぁ?」と思われては、一気に点数が下がります。ツッコミの嵐におそわれ、たちまち解答用紙は赤だらけ。
ではどうしたら説得力を持たせられるのか、それは「比較」です。そう、⑦で紹介した比較記述を用いるのです。では、どのように比較するのか。それは、「時間的」「空間的」「環境的」のどれかを使うのです。
どういうことか。まず、「時間的比較」これは、「江戸時代あたりでは、本とは勉強するためのもので、娯楽的要素は非常にうすかった。しかし現代では、本というと多くの人間が読書を連想する。決して高尚な趣味ではなく、一般市民に多く浸透しているものである。~」等、昔と今のような比較をするものです。
次に、「空間的比較」これは、「日本では、普通の読書に加え、日本を代表する文化の一つである漫画があるため、家に一冊も本がないということはまずありえないだろう。学校でも教科書をこれでもかというくらい使用する。しかし、アフリカやアジアの国々では、本自体がとても高価なもので、かつ国民の識字率の低さから本を持っていないという状況はさほど珍しいことでもない。~」等、日本と外国、家と学校のような比較をするものです。
最後に「環境的比較」これが一番難しいが、「初等中等教育を受けてきた人間は、現代の教育方法ではまず本から情報を得る。知識を得てから物事を考えるといったシステムができあがっているのだ。知識先行なので、忘れることも多い。しかし、初等中等教育を十分に受けていない人間は、実物、たとえば田畑や生物など生活にかかわる物事を、五感を使用して無意識に情報を得てきた。自分の生死にかかわることなので、忘れるといったことも少なく~」等、その比較する対象がどのような立場にあるのかを考えて比較するものです。
この問題形式は、必要とされる受験生が非常に少ないため、多くの人が頭の片すみに入れておいてもらえればいいと思っています。志望校によって必要になる人は個別に指導が必要です。
以上が記述を書く上での基本的なルールです。まずは、王道であるこのルールに乗っ取って記述を書けるようになることが重要です。自己流で書くのはそれから。「王道を知らないものは自己流、王道を知るものは我流」です。記述が書けるようになれば、嫌いな国語も少しは楽しく感じられるはず。何度も読み込んで、ルールを頭に叩き込みましょう。